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仙台高等裁判所 昭和30年(ネ)285号 判決 1955年11月15日

控訴人 林房義

被控訴人 佐藤勝助

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し金十一万六千七百二十四円及びこれに対する昭和二十八年九月七日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払うべし、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め仮に右請求が認められないときは不当利得を原因として右同額金員の支払を求める、と述べ、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は控訴代理人において、控訴人のした差押牛の保管のための行為が事務管理となるべき行為でなかつたとしても控訴人の右行為により被控訴人は不当に財産上の利得をしたと述べ、被控訴代理人において右主張事実を否認すると述べたほかは原判決事実摘示(証拠関係を含む)と同一であるからここにこれを引用する。

理由

当裁判所は以下に述べる新な理由を附加するほか原審と事実の確定並びに法律判断を同じくするから原判決理由中の記載をここに引用する。

控訴代理人の主張する不当利得返還請求権について。

差押物保存の為め特別の処分を必要とするときは執行吏は適当の方法を以てこれを為し、若し此が為に費用を要するときは債権者をしてこれを予納せしめることとされているが、(民事訴訟法第五百七十一条)強制執行の費用は結局債務者の負担に帰する(同法第五百五十四条)のであるから控訴人は執行吏との準委任契約に基く義務を履行したものとして執行吏をして飼育料相当額を取立てしめた上これを自己に交付すべきことを求める契約上の権利を有するものと解すべく従て控訴人立替の本件飼育料については控訴人に償還請求の方途は開かれておりこの間被控訴人との間に不当利得の債権関係を生する余地がないものといわなければならない。加之本件仮処分手続は、債権者勝訴の確定判決があつて目的たる畜牛は被控訴人からの執行費用未払のまゝ債権者被控訴人に引渡されて終了したとはいえ、被控訴人は仮処分中その所有にかゝる右畜牛の飼育を免れた反面これが使用収益も出来なかつたわけで、控訴人立替の本件飼育料で不当に利得をしたとせられる余地のあるものは該畜牛について不法に権利を主張して仮処分を誘発した債務者訴外人であつて被控訴人でないというべきである。従つて同訴外人に対してこれが利得の返還を請求するは格別被控訴人に対する控訴人の本訴不当利得の請求は理由がないものと云わなければならない。

よつて原判決は相当であつて本件控訴は理由がないものとし民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 板垣市太郎 檀崎喜作 岡本二郎)

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